体中の端々まで、熱い血がドクドクと音をたてて巡り始めている。


 細胞のひとつひとつを湧き立たせるこの血が、奥底から呼び覚ますんだ。


 どんな困難な戦いにも怯まず、先陣切って苦境に飛び込んでいく天内の強さを。


 まるで目の前を覆っていた濃い霧が、ようやく晴れたような気分だ。


 霧に隠れて見えなかっただけで、あたしが望む場所はちゃんとあった。


 あたしは、これからもその場所を目指して行けばいい。


 だって、望む場所へと足を進めるあたしの隣には……


「天内君」


 門川君。


 こんなに血まみれになるほど深い傷を負っても、何度でも立ち上がり、あたしに向かって手を差し出してくれる人がいる。


 その彼の手のひらには……


「さあ、これをキミからしま子へ」


 一輪の、花。


 あの日、しま子があたしに与えてくれた、かけがえのない物。


「以前キミは僕に言ったね? 僕の心の中に、氷に閉ざされた花が見えると」


 手のひらに乗せた花を、あたしに捧げてくれる彼の微笑みが涙で霞む。


 うん、いつか……


 いつかその氷をあたしの炎で溶かして、あなたの花をこの手に受け取ることが、あたしの夢だった……。


「どうか僕の思いを、僕の心をしま子に届けてくれ。それはキミにしかできない」


 あたしを真っ直ぐに見つめる、黒く澄んだ瞳。


 出会った頃、この瞳の奥は深い悲しみと、儚さと、諦めに満ちていた。


 それが今、こんなにも力強い光が宿っている。


 諦めきれない物に手を伸ばし続けようとする、明確な意思がある。


 あの苦難の日々から留まることなく進み続けて、彼はようやく、ここまで辿り着いたんだ。