あたしが決める?


 このまましま子を、ここにとどめるのか、異界へ戻すのかを?


 ど、どうしよう。そんなこと急に言われても、どうするべきかなんて……。


「グギャアァァッ!」


 しま子は休む間もなく威嚇の声を上げ続けている。


 つくづく、一緒にいた頃とは似ても似つかない姿だ。


 どこからどう見ても、ただの異形にしか見えない。こんなしま子の姿を見てると悲しくてたまらないよ。


 ……異界へ戻すのが一番いいのかもしれない。


 だって、しま子の記憶は戻らないんだよ?


 そんなしま子をここに置いていたって、どうなるのさ。


 無理やり調伏させて式神として使役させるか、このままずーっと呪縛陣の中に閉じ込めておくか、だ。


 それでいいの?


 そうして一生記憶の戻らないしま子と、あたしは向き合い続けるの?


 そんな悲しいこと、あたしに耐えられる?


 ……ううん。無理。


 思い悩むあたしの心の奥から、どんどん否定的な感情や考えが浮かんでくる。


 しま子と過ごした日々の記憶が幸せであればあるほど、大切であればあるほど、この現状との落差がつらくてしかたないんだ。


 思えば、しま子と初めて出会ったのはこの道場。


 これ以上ないってくらい最悪な顔合わせだった。


 なにしろ、冗談抜きで殺されると思ったもん。


 逆にあたしの方が、しま子を殺しかけちゃったけど。


 まさかあの赤鬼が、あたしにとってこれほど特別な存在になるなんて夢にも思わなかった。


 だけどしま子はもう、あたしのことなんて忘れて……


 …………。


 忘れて、しまっている、のに……。


「………」


 あたしは、鬼神の姿のしま子を食い入るように見つめた。


 そうだ。確かにしま子はあたしのことを忘れている。


 ……だから?


 それがどうした?