「と、とにかく、誰か治癒の術を使える人を呼んでくる! 待ってて!」


 絹糸をそっと床に下ろし、駆け出そうとしたあたしの袴の裾を門川君が掴んで止めた。


「いい。大丈夫だ」


「な、なに言ってんの! その状況のどこらへんが大丈夫なのよ!? 自分たちが半分死んでる状態だって分かってるの!?」


「さすがに自分が死んでいるか生きているかぐらい、判断はできるよ」


 床の上で毛皮の敷物みたいになってる絹糸が、ボソッとつぶやく。


「我は自分が半分以上死んどるように感じるんじゃが、気のせいかのぅ……?」


「小浮気殿の宝物のおかげで、少しずつ回復はしている。もう少ししたら治癒の術が使えるレベルまで回復するから心配ない。それよりも……」


 床に倒れたまま、門川君が苦しそうに首を反らした。


「どうする? 天内君」


 彼の視線の先には、鬼神のしま子。


 さっきからずっと敵意剥き出しで唸り声を上げている。


「運良く連れ帰りはしたが、あの状態だ。当然ながら僕たちの事はまったく覚えていないし、思い出す可能性もないだろう」


 そうだ。


 忘れてしまったとか、そういう次元の問題じゃないから。


 記憶を丸ごとバクに食べられてしまったんだから、思い出す記憶自体がないんだもの。


「それでも、このままここに置いておくか? 今なら異界へ戻すこともできる。キミが決めるんだ」