あたしに何も言わずに島へ渡った、クレーターさんの背中が脳裏に浮かんだ。


 あの薄い後頭部を思い出したら、目の奥がジュンッと熱くなる。


 湿り気を帯びた鼻をスンスンさせながら、あたしは両目をパチパチさせて涙をこらえた。


「な、なんで、誰も何もあたしに教えてくれなかったの?」


「誰にも何も言っていなかったからだよ。今回の異界行きは、僕と絹糸だけの秘密だった」


「どうして言ってくれなかったのさ?」


「言ったらキミは一緒について来たろう? 生きて帰ってこられる保証もないような場所に、キミを連れてはいけない」


「だからって……!」


「それにこれは、僕がキミに払うべき対価だ。なのにキミにこれ以上の代償を払わせるわけにはいかないよ」


「なぜか我まで代償を払うハメになっておるがのぅ……」


 ごもっともなグチをこぼした絹糸が、グッタリと息を吐く。


 門川君も、精も根も尽き果てた様子で床の上にドサリと倒れ込んでしまった。


 あたしが知らないところで、あたしのために命を賭けてくれていたふたり。


『こんな危険なことして、絶対に許さないから!』


『あたしのためにこんな目に遭わせてしまって、ごめんなさい!』


『なんで教えてくれなかったの? しま子を連れ戻しに行くなら、どんなに危険な場所でもついて行ったのに』


『ふたりが死にかけていた時に、なにも知らずにのほほんと笑っていたなんて、あたしは大バカ者だ!』


 頭も心もいろんな物がドッと押し寄せてきてグチャゴチャ。


 なにをどう言えばいいものか、もう、胸がいっぱいで。


 ひたすら泣きそう……。