「門川君! 大丈夫!?」


 大丈夫じゃないのは一目見れば分かるけど、それしか言いようがない。


 急いで彼の元に駆け寄ったあたしは、その肩を抱きかかえるようにして顔を覗き込んだ。


「門川君、しっかりして! いったい何があったの!?」


「天内君、心配をかけて済まない。実は、僕はキミに嘘をついていたんだ」


「嘘!? なにが!?」


 嘘ってどういうこと!?


 っていうか、すでにこの状況そのものが『嘘だろオイ!?』ってカンジなんですけど!?


「僕は今まで絹糸とふたりで、ずっと異界にいたんだよ。そこで、ようやくしま子を見つけ出した」


「……はあぁぁ!? 異界ぃー!?」


 あたしの引っくり返った叫び声が、廃墟みたいな道場内に響きわたる。


 い、異界に行ってたってどういうことよ!?


 この道場で、ふたりで『修行』という名の殺し合いに励んでたんじゃなかったの!?


「キミには今回、大きな犠牲を払わせてしまった。だから僕は、その対価を払わなければならない」


 青ざめた彼の額に浮かんだ玉のような汗がツゥッと伝って、アゴの先から雨だれみたいにボタボタと落ちる。


 息も絶え絶えの掠れ声で、彼は必死に言葉を続けた。


「キミが払った犠牲の大きさにふさわしい対価を考えたら、これしか思い浮かばなかったんだ。でもさすがに僕ひとりでは心許なかったので、絹糸に頼んで同行してもらった」


「……永久ひとりで死地に赴かせるわけにはいくまい。しかたなく我も同行したんじゃ」


 いつの間にか意識を取り戻したらしい絹糸が、あたしの腕の中でボソボソとしゃべり始めた。


「やれやれ、お前らに関わると、ほんにロクな目に遭わんのぅ」


「済まない、絹糸。感謝しているよ」


「感謝はいいから、早くこの状態をなんとかせい。このままでは真面目にあの世へ直行してしまう」


 って言った途端に、ふたり同時にガハッと吐血するのを見て、こっちの意識までクラッと遠のく。


 真っ赤な血を吐きながら死ぬほど咳き込んでいる様子を見ているうちに、あたしの頭にも真っ赤な血が上った。


 な……


 な……


「なにやってんのよ! アンタらはぁぁ――――!」


『異界に行って来ました』だぁあ!?


 バッッッカじゃないの!?


 観光旅行じゃあるまいし、あんな生き地獄みたいな所に行くとか、そんな、そんな……!


 しかも、あたしへの対価とかって、そんな!