伸ばした指の先には、雨に湿った午後の空気だけ。


 シンと静まり返った中庭に、一羽の鳥の鳴き声が寂しく響いて、すぐにまた無音になった。


「…………」


 あたしはポロポロ流れる涙を手でぬぐいながら、盛大に鼻をすすって空を見上げる。


 涙で霞んだ雨上がりの空に、虹が見えた。


 青空に浮かぶ雲の切れ間に、透き通る七色の淡い束。


 これは、わずか一瞬の幸せな贈り物だ。


 ほんの少しの間だけ許された、夢のような時間。


 どんなに願ってもその幸せな時はあっという間にボヤケて、跡形もなく消えてしまう。


 せめて、そのかけがえのない姿を、この目と心にしっかりと刻みたい……。


「小娘」


 瞬きする間も惜しんで消えゆく虹を見上げていたら、思いもよらない声が聞こえてビックリしてしまった。


 この声、絹糸!? 道場から出てきたの!?


 ということは、修行が終了したんだね? ようやく門川君の気が済んだのか。


「絹糸、いつ道場から出てき……って、どーしたのよその姿は!」


 振り返ったあたしは、目を丸くして大声を上げてしまった。


 だって絹糸、満身創痍なんですけど!?


 まるでズタボロのぞうきんだよ! 酔っ払いみたいにフラフラだし、大量に出血してるじゃん!


 わ、わ、絹糸が歩いた場所に血の道ができてる!


 なんでそんな全身血だらけ傷だらけになってんの!?


 そんな激しい修行してたの!?


 もはやそれ、修行じゃないよね!? 完全に殺し合いの域に達してるよね!?