そういうお岩さんは、つい先日、凍雨くんと正式に婚約したばかりだ。


『自分は誰とも一生結婚しない』


 以前、お岩さんはそう言っていた。


 でも今、彼女は凍雨くんと婚約してる。本当に将来結婚するかどうかは確かじゃないけど。


 お岩さんの心の内に、お月さまが徐々にその形を変えていくような、静かな変化があったんだろう。


 彼女の中で、セバスチャンさんへの想いがどんな形で決着がついたのかは、分かんない。


 それは、決着と言うべきなのか。


 それとも昇華と言うべきなのか。


 もしかしたら、諦めと言うのが正しいものなのか。


 それすらもあたしには分かんないことだけど。でも……。


「天内さん、権田原さん、お待たせしました」


 縁側の向こうから少年の明るい声が響いてきて、あたしとお岩さんはそちらに視線を向けた。


 最近やたらとすくすく背が伸び始めた凍雨くんが、こっちに向かって歩いてくる。


 その背後には、漆黒の執事服に身を包んだ美青年が。


「凍雨さん、セバスチャン、お疲れ様ですわ」


 ふたりに向けるお岩さんの温かな眼差しを見てると、感じる。


 お岩さんの中の変化は、悪いものじゃないんだって。


「あ、ほら皆さん見てください! 雨ですよ!」


「まあ、ほんとですわ。天気雨」