誰のせいであたしはしま子を失ったの? あたしは誰を責めればいいの?


 …………。


 ううん、ほんとは分かってる。誰のせいでもない。あたしのせいだ。


 だってしま子は、あたしを守るために自分を犠牲にしたんだから。


 あたしがしま子を不幸にした原因だ。


 しま子はこれまで数えきれないほどあたしを守ってくれて、助けてくれて、支えてくれて、愛してくれた。


 なのに結局あたしは一度も、そんなしま子に恩返しできず、恩返しどころか最悪の状態で犠牲にしてしまった。


 あたしさえいなければ、しま子は……。


「天内君、申し訳なかった」


 自分を責め続けるあたしの隣で、門川君が淡々と謝り続けている。


 そのことがまた、つらい。悪いのは自分だって分かってるのに、その横で誰かに謝られたりしたら立場がない。


「申し訳ない。本当に済まない。天内君」


 それでも門川君は、あたしに何度も謝り続けた。


 何度も、何度も、彼が繰り返す謝罪の言葉を聞いているうちに、あたしはようやく気がついた。


 その言葉には、別の意味がこめられているということに。


『悪いのは僕だ。だから思う存分、僕を責めて楽になれ』


 門川君は、そう言ってくれているんだ。


 しま子を犠牲にした罪に苦しむあたしを、彼は自分が罪をかぶるという犠牲を払って、救おうとしてくれている。


 ……門川君、そんなことされたら、あたし余計に……。


「グス……ヒック……」


 震える唇からすすり泣きが漏れて、あたしは歯を食いしばって泣き声を噛み殺した。


 誰かに優しくされることが、こんなつらい。


 いっそ『お前のせいだ』と指摘されれば、少しは楽になるんだろうか?


 ……ううん。逃れられない事実を目の前に突きつけられて、あたしの弱い心は薄いガラスみたいに、粉々になってしまう。


 それをよく知っているから、門川君は『僕が悪い』と言ってくれているんだ。


 あたしは、弱虫。


 自分が悪いって分かってるくせに、誰かを責めて楽になりたい、卑怯者。


 あたし……ほんと、さいてー……。


「僕は水園殿を守ることで、自分の心と母上を救いたかったんだよ」


 唇を噛みしめ、沈黙を続けるあたしの隣で、門川君はようやく謝罪以外のことを話し始めた。


「母上は僕を最後まで守り切り、その結果、奥方に殺された。僕は母上を守って差し上げることができなかったんだ」