「門川当主様が、内密に私を追いかけてくるだろうことは予測できました。騒ぎが大きくなって探索隊などに追いかけられては、身動きがとれなくなってしまいますから」


「なるほどのぅ。それで駆け落ちを匂わせるような伝言を、わざと残したというわけか」


 当主の駆け落ちなんてスキャンダル、絶対に公にできない。水園さんの……ううん、地味男の思惑通りに事は内密にされた。


 途中、あたしたちっていう不確定要素のせいで狂いは生じたけれど、ほぼ地味男の計画どおり進んだわけだ。


「すべて、私の責任なのです。私という存在のせいで誰もが傷つき、悲しみ、苦しむことになってしまうのです」


 水園さんの滑らかな頬に、透明な涙の雫がはらはらと零れ落ちる。


 表情を忘れたように動かない美貌を伝う涙は、まるで舞い散る花びらのようで、やっぱりとても美しかった。


「天内さん、申し訳ありませんでした。あの赤鬼のこともすべて私が悪……」


 あたしは水園さんの謝罪の言葉を最後まで聞かずにスッと立ち上がり、みんなに背を向けて、スタスタと部屋を出てしまった。


 そのまま真っ直ぐ廊下を進み、突き当りで床にしゃがみこんで、ヒザを抱えて背中を丸める。


 ……ひどい態度だってことくらい、分かってる。


 水園さんが本当に苦しんだってことも、みんながあたしを本気で心配してくれていることも、ちゃんと分かってる。


 でも、つらいんだ。


 水園さんの謝罪で、みんなから向けられる痛ましい視線で、あたしは思い知らされるから。


 しま子がもう、いないってことを……。


「天内君」


 背後から、門川君の声が聞こえた。