「事情を知った僕は、とにかく水園殿と水絵巻を、成重殿から引き離す必要があると判断したんだ」


「ふうむ。それで『水園を気に入った』という名目で、こっそり水絵巻と一緒にあの庵に匿ったというわけか」


「そういうことにすれば誰も近づかないし、一族で庵を侵入者から守ってもらえると思ったんだよ」


 たしかにせっかく門川当主が水園さんと仲むつまじくしている所に、のこのこ他者を入り込ませる者は、小浮気一族の中にはいないだろう。


 門川君はDV被害者の女性をシェルターに隔離するように、水園さんを地味男から守ろうとしたんだ。


 あの庵に漂っていた、どこか息を潜めるような空気はやっぱり思い過ごしじゃなかったのか。


「でも僕の隙をついて、成重殿が巧妙に水園殿に接触したんだ」


「どうやってじゃ? あそこは結界に守られておるから、いかに長老でもむやみに近づけぬであろう?」


「彫刻鳥だよ」


 門川君の答えに、絹糸がハッと目を見開く。


「おお、そうか。小浮気よ、お前あれを結界内に配置しておったのか?」


 絹糸に話を振られたクレーターさんが、当然のようにうなづいた。


「不測の事態に備えて、結界の中と外で連絡が取れるように彫刻鳥を配置するのが、検分の際の習わしなのだ」


「彫刻鳥はテレパシーでお互いの情報をやり取りすることができるからのぅ。永久、お前は彫刻鳥が配置されていることを知らんかったのか?」


「あぁ、まったく僕がうかつだったよ。成重殿は水園殿がひとりで庵にいるときに、彫刻鳥を使って水園殿に揺さぶりをかけてきたらしい」


 門川君に「そうだね?」と問われて、水園さんが答えた。