「水園よ、お前、水絵巻をかっぱらおうとしていたのではのうて、ブチ壊そうとしておったのか!?」


 絹糸に大声で問い詰められ、水園さんは怯えたように身を縮めてしまった。


「な、成重様に脅迫され続け、責められ続けて私はもう限界だったのです。この水絵巻さえなければ、彼の恐ろしい計画を阻止できると思って……」


「じゃからといって、門川の家宝じゃぞ!? 破壊してその後、どうするつもりじゃったんじゃ!」


「後のことはなにも考えておりませんでした。心身ともに疲れ果て、まともな思考ができなくなってしまっていたのです」


「追い詰められて錯乱状態じゃったというわけか。まったくこの父娘ときたら、手クセが悪いうえにやることも派手じゃわい。こんな大胆な親子に宝物を任せておったのかと思うと鳥肌が立つわ」


 ガクッと脱力する絹糸は、気を取り直したように門川君に質問する。


「で、お前はなにをしとったんじゃ?」


「宝物庫の検分の休憩時間に、小浮気の従者役の目を逃れて、ひとりで歩き回っていたんだよ。水絵巻の保管場所に近づいたとき、水園殿と鉢合わせたんだ」


 門川君の目的のひとつは、水絵巻を使ってお岩さんとセバスチャンさんの過去を探り出すこと。


 肝心の水絵巻の様子を見に行って、その水絵巻を叩き壊そうとしている錯乱状態の水園さんと会ったわけだ。


 お互いさぞかし血の気が引いたことだろう。


「水園殿が普通の状態でないことは、ひと目で分かった。狂ったように泣きわめく水園殿をなだめて、すべての事情を聞き出したんだよ」


「門川当主様に見とがめられ、もう観念した私は、その場で洗いざらいを当主様に打ち明けたのです」