必死の形相で地味男を見上げ、指の色が白く変わるほど強く袴を握りしめている。


 その表情が、言動が、彼女の中に潜む深い秘密を匂わせていた。


「す、水園? お前、どうしたのだ?」


 クレーターさんが、自分の娘の尋常じゃない様子に困惑している。


 でも水園さんはなりふり構わず地味男に縋り、「お願い、お願いだから」と懇願し続けた。


 まるで命乞いでもしているみたいなその態度が、あたしたちの胸に確信を持たせる。


 水園さんが地味男の言いなりになっているのは、妹を犠牲にしてしまったことへの罪悪感だと思っていたけれど……


 たぶん、それだけじゃない。


 水園さんには、絶対にバレてほしくないような、ひどく後ろめたい秘密がある。


 それを地味男は握っていて、その秘密を盾にして水園さんを思い通りに操っているんだ。


「あぁ、そうでしたね。私はたしかに約束をしましたね。協力すればあなたの秘密は守ると」


 地味男が、動揺する水園さんを宥めるような穏やかな声を出した。


 カタカタと怯え震える水園さんの頭を、優しくそっと撫でさする。


 そして、命綱みたいに袴を強く握りしめている水園さんの手をゆっくりと外して、優しく両手で包み込んだ。


「ですが、水園殿……」


 三日月形に笑う唇の両端が、さらに上がる。


「残念ながらこの世には、『たしか』なものなど、ひとつも存在しないのですよ」


 言うなり、地味男は水園さんの手を水絵巻にバシャリと浸した。


 真っ青になった水園さんの唇から、声にならない悲鳴が上がる。


 と同時に、水絵巻からいきなり白い靄が大量に吹き出し、まるで蒸気機関車の水蒸気みたいな勢いでモクモクと膨れ上がった。