ねぇ、地味男。しかたないんだよ。


 水晶さんはもう、いないんだ。


 あんたがいくらそうして復讐したって、あんたの本当の望みは叶わない。


 死んだ者は生き返らない。


 水晶さんは、どうあっても、なにがあっても戻ってこない。


 認められないだろうけど、納得できないだろうけど、それがこの世の現実なんだよ。


「だからもう、やめて。こんなことして、本当に水晶みたいに綺麗だった彼女の心を、踏みにじらないで」


「私が、水晶の気持ちを踏みにじっていると?」


 三日月形に反る地味男の両目と口元が、能面のように無表情な微笑を作り出している。


 仮面の笑みを浮かべつつ、地味男は水園さんに揶揄するように話しかけた。


「どうやら私は皆様に、水晶を裏切っていると思われているようですね? ねぇ、水園殿」


「…………」


「それは非常に不本意です。そう思いませんか?」


 あたしたちからも地味男からも顔を背ける水園さんの顔は、すっかり青ざめてしまっている。


 目はオロオロと泳ぎ、肩をすぼめて身を縮めるその様子は、不自然なほど激しく動揺していた。


 水園さん……? なにをそんなに怯えているの?


「誤解されたままでは困りますから、皆様にもぜひ事情を説明……」


「やめて!」


 いきなり水園さんが、血相変えて地味男の袴にガバッと縋りついた。


「お願い! なにも言わない約束でしょう!?」