耐えきれぬ苦悶を抱えた表情が、また泣き顔になった。涙交じりの苦しげな声で彼女は言う。


「成重様は、私に復讐しているのです」


『復讐』という言葉を聞いて、あたしは瞬時に悟った。


 それは、あのことしか考えられない。水園さんの命を守るために、水晶さんが儀式の生贄にされたこと。


 水園さんは、妹とその恋人だった地味男に対して、一生消えないほどの深い負い目がある。


 地味男はその負い目を利用して、地味男は自分の計画に水園さんを無理やり加担させているってことか。


「おや? なにやら人聞きの悪い言われようですね?」


 光の届かぬ闇の中から声が聞こえて、水園さんがギクリと身を震わせた。


 サクサクと土を踏む音がして、淡い月明かりの元に袴の裾と草履が見えて、あたしたちは揃って身構える。


「皆様、お揃いでようこそ」


 闇の中から、現れるべくして姿を現したのは、極めて平凡な容姿の男。


 でも月光がその顔に陰影を刻み、見たこともない凄みを生みだしている。


 あたしは、一重の目を糸のように細めて笑う男に向かって言葉を投げかけた。


「地味男、もうやめて。水園さんをクレーターさんに返してあげて」


 あんたがなにをしようとしてるかは知らないけど、こんなことしちゃダメだ。


 だってこんなこと、水晶さんの気持ちを無駄にしていることになっちゃう。


 水晶さんはね、お姉さんのことや一族のことが大好きだったんだよ。


 だから水園さんに、大切な一族の未来を託して死んでいったんだ。