「なんなのそれ!?」


「だから、キノコだ。見れば分かるだろう」


「うん分かるから聞いてる! なんでキノコが光ってるの? しかも緑色に」


「物知らずな娘だ。世の中には光るキノコも存在する。もっともこれは自然の物に手を加えて、巨大かつ強烈な光を放つように改良されているが」


「そもそも、なんでキノコが光らなくちゃなんないの?」


「知らん。キノコに聞け、キノコに」


 いや、キノコに聞いても答えてもらえないだろうから、聞かない。


 けど明るくなって歩きやすくなったのはありがたいから、感謝はしよう。ありがとうキノコ。


 巨大シイタケを傘のように掲げてるクレーターさんを中心に、かなりの広範囲で視界が効いてる。


 光の色が緑のせいで、昼のようにバッチリ鮮明ってわけにはいかないけど、これだけ見えれば上等、上等。


 これなら、地面から顔を出してる木の根っこに足を引っかける心配もない。


 順調に山道を登っていると、風に揺れる背の高い木々の梢の先に月が見えた。


 金と銀とプラチナを溶かし合わせた色合いの真円が、黒いビロードの布地に置かれた貴金属のように空に浮かんで、深々と光を放っている。


 周囲には星もなく、他に見る物もない闇の世界で、ひときわ目を奪われる光景だ。


 まるで引力に引っ張られるように、あたしたちは自ら進んで月を目指して歩いていく。


 きっと、この先にはなにかがある。


 そんな確信めいた予感が胸をよぎり、あたしたちは無心に、そして無言で足を速めた。


 額が汗ばむくらい歩き続けて、ザクザクと土を踏む音と、それぞれの息遣いと、風の音と、木々の気配しかない世界が突然に開ける。


 目の前に、まるで舞台のように大きくて平らな土地が現れて、そこに水園さんがポツンと座っていた。