腕組みしたまま、お岩さんはセバスチャンさんにジロリと視線を流した。


 セバスチャンさんはその視線を真っ向で受け止めつつ、冷静に対応する。


「人の心は、縛れないのです。仮に永久様の恋愛対象が、天内のお嬢様から別の女性に変わったのだとしても、それを正す資格も裁く権利も、ジュエル様にはございません」


「正す? 裁く? ……永久様にアマンダを愛し直せと強要するつもりも、裁判官よろしく判決を言い渡すつもりもありませんわ」


 お岩さんは、せせら笑った。


 その不敵な表情は実に毅然としていて、引き込まれてしまうほど堂々としている。


「わたくしは、自分の大切な人を無残に踏みにじられたことに対する、わたくし個人の正当な怒りをぶつけるだけです」


『それのどこに文句があるのか? 文句があるなら言いさらせ』


 お岩さんの目は、そう言っていた。


 あたしは口をポカンと開いて地べたに座りこみながら、黙ってお岩さんを見上げていた。


 お岩さんの堂々とした態度が、ひとつひとつの言い分が、あたしの心にじんわりと染み込んでいく。


 ヤスリで削られたようにザラザラだった心の傷を、優しく優しく覆ってくれる。


「わたくし、身内を傷つけられたら決して黙っていませんわ。そして自分の身内が誰かを傷つけたなら、それを見て見ぬふりもいたしません」


 腕組みを解き、その手を腰に当てて、お岩さんは鼻から大きく息を吸ってフーッと吐き出した。


 そしてグッと胸を張り、凛とした表情で断言する。


「アマンダも、永久様も、わたくしにとってかけがえのない身内ですもの」


 …………。


 思わず、泣きそうになってしまった……。


 心がジ――ンと熱くなる。いまにも泣き声が漏れそうな唇をグッと閉じ、あたしは鼻をグズつかせた。


 お岩さん……。


「それならば、なにも文句はございません。どうぞ永久様をご存分にお埋めくださいませ」


 セバスチャンさんが、お岩さんに負けずに物騒なセリフを吐いた。