「みんなが戻らないって言うなら、あたしひとりで戻るから!」


「小娘よ、子どもじみたことを言うでない」


「あたしまだ子どもだもん! 高校生だもん! 未成年だもん選挙権すら与えられてないもん!」


 門川君への切ない想い。果たすべき重い責任。


 自分自身への強い苛立ち。水園さんの影に怯える心。


 こんなの、あたしには抱えきれないよ。


 消化しきれない感情と、対処しきれない状況の複雑さに、キャパ越えした頭はどうしようもなくて、もう大爆発してしまいそうだ。


 もう嫌だ! もうなにも考えたくない!


 このまま目ぇ瞑って下向いて、さっさとここから立ち去ってやるんだ!


「アマンダ、お待ちになって!」

「止めないで、お岩さん!」


 制止するお岩さんの声が聞こえたけれど、あたしは涙で滲む目をギュッと瞑ったまま、思い切り走り出した。


 ごめんお岩さん! 弱虫なあたしを許して!


「どうかこのまま行かせてー!」

「行かせませんわ――!」


―― ガッゴ――――ン!

「ぐえ!?」


 アゴの下に謎の衝撃を受けたあたしは、その反動で勢いよく仰向けに引っくり返る。


 そしてアスファルトに後頭部を強打して、目から火花がブッ飛んだ!


「痛あぁぁ――!」

「うわあ!? あ、天内さん大丈夫ですか!?」

「里緒殿!? 大丈夫でおじゃるか!?」


 大丈夫もなにも、なにが起こったのか、わけがわかりましぇん……?


 倒れた状態で両目をパッチリ開いたら、見上げた夜空に星が瞬いていた。


 激痛の走る後頭部をなでさすりながら首をもたげると、ドレス姿のお岩さんが、めいっぱい両腕を横に広げて仁王立ちしている。


 ……あ、わかった。謎の衝撃の正体。


 あたし、お岩さんのあの腕に、思いっ切りアゴ引っ掛けちゃったんだ。


 …………。


「ヒドイよお岩さんー!」

「行かせないと忠告しましたわ!」

「だからって、ラリアットすることないじゃん!」


 シロートがこんな危険なプロレス技して、命に別状あったらどうしてくれんの!?