「小娘よ、まさかこのまま、逃げ帰ろうなどと考えてはおらぬじゃろうな」


 一番弱い部分を、容赦なく突かれてギクリとした。


 指摘されたくなかったことを、そのものズバリ指摘されて、バツが悪くてたまらない。


 叱られた子どもみたいな、こんなミジメな自分をみんなに見られているのがつらくて、ますます下を向いた。


「帰っちゃ……悪い?」


 アスファルトに座り込んだまま、両手をギュッと握りしめて、あたしはふて腐れた声でボソッとつぶやいた。


 絹糸がそんなあたしに、ひどく真面目に答える。


「お前は永久の護衛役じゃろうが」


「そうだけど……」


「おのれで決めたことには、責任を持て」


「そうだけど」


「何のために自分がここにいるのかを、よう考えてみい」


「そうだけど! それ、なんであたしだけ!?」


 うつむいた顔を上げもせず、あたしは声を荒げた。


「それって、おかしくない!? あたしだけが貧乏くじ引くのって変だよ!」


 だって、あたしが門川君の護衛役になったのは、門川君と想いが通じ合っていたからだよ!


 だからこそ、『自分の命を盾にしても一生お互いを守り続ける』って誓い合ったんだ。


 なのに、この仕打ちはどうよ!?


 プロポーズされて、勝手に婚約発表されたかと思ったら、直後にひとりぼっちにされちゃって。


 黙って耐えて待ったあげくに、彼はサッサと美人と逃避行。おまけに目の前で、あんなキメ台詞まで聞かされちゃって。


 こんな好き勝手されながら、あたしだけが律儀に誓いを守んなきゃなんないわけ!?


 バカ正直もいいとこじゃん! いや、バカ正直っていうよりそれもう、ただの純正バカ!