「世代交代だけじゃなく、後輩達の将来の居場所を切り開いて行くのも自分たちの仕事だと思ってるんで。ファンの人達には違う形で恩返し出来ればとは思ってるんですけど」
二人は、今日初めて出会ったとは思えないほど話が盛り上がっていた。
名古屋までの約二時間、色々と話した。
楓のファン歴の長さもあって、色んな話で盛り上がってしまった。
「もっと色んな話聞きたいなぁ。あの、もしよかったらですけど、連絡してもいいですか?」
「え?」
MAKIDAIにそう言われて、楓は驚く。
「あ、すいません。なんかナンパみたいだったかな?いや、なんか、食改善とか自分にも必要だってよく分かったし、世の中にも必要なことでしょ。あぁ、名刺ももらったし…」
「あ、はい。あの、えっとMAKIDAIさんにならナンパでも…って、あ、そうじゃなくて、食改善ですよね」
楓はまさかの展開に動揺してしまう。
がMAKIDAIが、吹き出した。
「なんか、今の会話、変だったよね?」
「はい、そうですね」
楓も一緒に、笑った。
「初対面だけど、本当に食改善の話とかもっと色々教えて欲しいなって…。なんか、図々しいかな」
MAKIDAIは、純粋に楓の熱心な話に引き込まれていたようだ。
「全然っ、そんなことないです。逆にありがとうございます。私も今までMAKIDAIさんのファンでいて、まさかこんな機会があるなんて思ってもみなくて…。でも、私の仕事に興味持って貰えるなんてすごく光栄です」
MAKIDAIは、楓のキラキラとした目や笑顔にも魅力を感じていたのかもしれない。
「うん。これも縁ってやつだね」
「はいっ。私の仕事がMAKIDAIさんのお役に立てるなら、この上ないです」
楓は、夢かと思うようなこの状況がまだ信じられなかった。
「そうだ、せっかく名古屋にいるなら、こっちで会えればいいなぁ。んー、俺の予定は、明日明後日がLiveがあってその次の日の昼間に帰るから、午前中なら少し時間取れるかも」
楓は慌ててスケジュール帳を確認する。
「よかったぁ、丁度、私もその時間空いてます。また、MAKIDAIさんにあえるんですよね。夢じゃないですよね?」
「はい、夢じゃないです」
MAKIDAIが笑う。
その笑顔にまたキュンとしてしまう楓だった。
「あ、名古屋でLiveなんですね」
「そうそう、三代目のLiveだけどね」
「そうなんですか?」
「三代目のファン?」
「え、違いますけど、MAKIDAIさんが出るなら、行きたかったなって」
「あ、そうか、俺のファンだったよね…」
「ふふっ、MAKIDAIさんって、面白いですね」
楓が笑うと、MAKIDAIは慌てて謝る。
「ごめん、ごめん。本当、俺ってボケてるよね」
「いえ、そんなとこも好きです」
楓は、ハニカミながら言う。
「え、なんか、面と向かって言われると恥ずかしい」
MAKIDAIは額をかきながら照れる。
車内の電光掲示板が間も無く名古屋に到着の案内がながれた。
「あ、もう、名古屋ですね」
楓は、名残惜しそうに言う。
「なんか、あっという間だったなぁ。楓さんとの話が楽しかったからね。じゃあ、また時間と場所を連絡します」
MAKIDAIの言葉が嬉しい。
二人は、改札まで一緒に出た。
「じゃあ、私はこっちなんで」
楓は在来線のホームへ、MAKIDAIは駅のホテルへ。
「それじゃあ、また」
「はいっ」
二人は、手を振り別れた。
在来線のホームで電車を待つ楓はまだ夢を見ているような気分だった。
(MAKIDAIさんの携帯番号が私の携帯に…、信じられない〜)
新幹線の中でMAKIDAIが教えてくれた番号を見て、一人で顔を赤らめる。
そして新幹線での2時間を思い出してニヤける楓だった。
一方、MAKIDAIはホテルでマネージャーと合流した。
「お疲れ〜、MAKIDAI、無事にたどりついたじゃん」
乗り過ごすのではないかと、心配していたマネージャーがそういった。
「いや〜、それよりさ、隣の席の人が俺のファンでさ、中々よかったわけよ」
MAKIDAIが嬉しそうに話す。
「なに、そのニヤケ具合は?そんな可愛い子だったの?」
「いや、可愛いっていうか、まぁ綺麗な人なんだけど、なんかめちゃめちゃいい人でさ。食改善の仕事してるとかで、すんごいちゃんとした目標とかもっててなんかかっこいいっていうか、そうそう、会えば分かるって」
「は?会えばって、会うの?何?ナンパ?」
「いやっ違う違う、ちょっと仕事に活かせないかなぁと思って、こっちで会う約束したから」
「名古屋で?」
「うん。名古屋の人だから。Liveの次の日の朝ここのホテルのロビーで待ち合わせでいいよね。連絡しとくから他の予定いれないでよ」
マネージャーは、呆れ顔だったがMAKIDAIは、ウキウキした様子で携帯電話を取り出す。
楓がホームでニヤケながら、携帯を握りしめていると、着信があった。
バイブにドキッとしながら画面を見ると早々にMAKIDAIからの着信だった。
(え、もう電話?)
緊張しながら、画面をタッチする。
「も、もしもし、…楓です」
…「あ、楓さん。MAKIDAIです。さっきはありがとうございました。時間だけど、10時にホテルのロビーで待ち合わせでいいですか?」
「は、はいっ。10時ですね」
…「じゃあ、楽しみにしてます」
「はい、私も会えるの楽しみにしてます。じゃあ」
MAKIDAIに会えただけでも奇跡と思えたのに、また会えるとは偶然ではなく必然だったのかもしれない。
第 1 話 〜 終 〜
(やっぱり、もっと地味なスーツにすればよかったかな?)
エレベーターの中でソワソワする楓。
(あぁ、緊張する〜。だいたい、このホテル有名だけど、高級過ぎて名古屋にすんでても一回も来たことないし。名古屋でLiveの時はMAKIDAIさん達いつもここのホテルに泊まってるって、ネットで見たことあるけど、本当だったんだ〜)
ロビーがある15階に到着する。
ロビーの奥のラウンジでMAKIDAIを探す。
MAKIDAIが楓に気付き手を振った。
楓は緊張し過ぎて、歩き方までぎこちなくなってしまう。
(落ち着いて、落ち着いて…)
自分に言い聞かせながら、少し手前で気づかれないように深呼吸する。
「おはようございます」
MAKIDAIの方から、声を掛けてきた。
「…おはようございますっ」
楓も慌てて、挨拶をする。
「あの、マネージャーも一緒に話聞いていいかな?」
MAKIDAIが紹介してくれた隣の男性が頭を下げると楓も慌てて頭を下げる。
「あ、名刺を…」
楓が名刺を出すと、マネージャーも慌てて名刺をだした。
「工藤さん、ですね」
楓が名刺を見て、名前を確認する。
「はい、よろしくお願いします」
2日前に会ったとはいえ、改めてMAKIDAIと二人きりでは緊張しすぎてしまうのでマネージャーがいてくれて内心ホッとする楓だった。
「そう言えば、昨日のLiveは、どうでしたか?」
楓が昨日のLiveの話を切り出す。
「もう、名古屋の人達はノリがいいから盛り上がりましたよ」
MAKIDAIが嬉しそうに答える。
「そうですか。私、三代目のLiveは行ったことないですけど、MAKIDAIさんが出るならチケット取ればよかったぁ」
「また、追加公演もあるんじゃないかな」
「そうなんですか⁈絶対に行きます」
そんな話から、始まったが楓の緊張もほぐれたところでMAKIDAIの仕事の話から徐々に食生活についての話へと掘り下げていく。
「MAKIDAIさんは、仕事がら地方へ行ったりも多いし、独身ですし外食とか多くないですか?」
楓は手帳を広げながら、話を続ける。
「多いどころか、恥ずかしながら自炊とか全くしないです」
MAKIDAIは、申し訳なさそうにいう。
「うーん、やっぱりそうですね。じゃあ…、これからもその食生活を続けますか?」
楓がそう質問して、MAKIDAIの顔をじっと見る。
「いやぁ、色々心配はあるけど、結婚でもすれば変わってくるんだろうけど、中々ねぇ」
顎に拳を当てながら、頭をかしげるMAKIDAI。
楓は、うんうんとうなづき、
「ファンとしては、MAKIDAIさんが独身なのは魅力的ですけど、でも食事のこととか将来のことは心配です」
マネージャーの工藤もうなづきながら、
「そうだよねぇ、MAKIDAIが結婚したら俺の仕事も少しは減りそうだし、俺も結婚して欲しいと思ってますよ」
と横やりを入れる。
「こらこら、工藤ちゃんを楽させるために俺が結婚するの?っていうか、本題はそこじゃないから」
それに対してMAKIDAIは突っ込みを入れる。
「うーん、でも健康管理もマネージャーさんの仕事の一つですから、心配しないわけにいかないですよね」
楓の切り返しにMAKIDAIはやられた、という表情だ。
「本来ならそうですけど、まぁ飲み出したら止まらないし、食事も偏ってますからねぇ。今は、鍛えてたりしてるからそこまで神経使ってないけどね、40歳過ぎたらやっぱり色々あるしね」
工藤もMAKIDAIの身体の事は、常に心配している。
「まぁ、工藤ちゃんにもファンの皆んなにも心配かけっぱなしなわけに行かないからさぁ、る楓さんに出会ったのも、縁だし、この機会にそろそろ心を入れ替えようかなと思ってます」
MAKIDAIは工藤に心配かけるだけでなく身体が資本の職業だからこそいい機会だと思っていたようだ。
「例えば、休肝日とか、胃腸を休める日を作るだけでも効果はあります」
「そうだよね。この前の話でもそう聞いたから、まずは自分の身体を維持する為の食事指導してほしいと思ってるんですよ」
「分かりました。私に出来る事で精一杯MAKIDAIさんをサポートしていきますね」
楓は大好きなMAKIDAIと仕事が出来るのは、夢のようなこと。
いつにも増して力が入る。
「まずは、今の食生活がどんな感じか知りたいです。でも、記入したりは大変なので、毎日の食事の写メを送って貰う方法をとってますが、可能ですか?」
仕事とはいえ、毎日MAKIDAIとメールのやり取り出来るとは、
(この仕事やってて、本当によかったぁ)
と心から思った。
「あぁ、写メなら、続きそう」
「確かに。MAKIDAI、めんどくさがりだし、それいいね」
なんの違和感もなく、二人は賛成だ。
「よかった。それならダイレクトに指導出来ますから、すぐにはじめられますね。直接お話する時間もとって頂ければ、その時更に詳しく指導していきますし」
「全然、大丈夫です。東京に来る時、連絡して下さい」
「はい、分かりました。MAKIDAIさんに会えると思ったら、2時間の道のりもきっと気にならなくなります」
嬉しそうにそういう楓。
MAKIDAIが腕時計を見た。
「楓さん、時間何時まで大丈夫?俺たち、昼過ぎの新幹線で帰る予定だから、ちょっと早いけどよかったら、ランチしながら話の続き、どうかな?」
「時間、全然大丈夫なので、是非ご一緒したいです」
即答だが、他の予定があったとしても、断っただろう。
「じゃあ、地元の人のオススメランチといきましょうか?」
「お、いいね」
「え、オススメですか?どこがいいかな。名古屋メシとか?」
MAKIDAIにオススメと言われ、焦る楓。
「うーん、あ、そうだ、MAKIDAIさん、親子丼お好きですよね?」
「さすがだね。そこまで知ってるとは」
「あ、モバイルとかでお蕎麦と親子丼食べてるとこ載ってたような気がして」
工藤のツッコミに照れる楓。
3人は、駅の地下にある店へと向かった。
「楓さん、先に謝っとくね。俺、マスクしてたらほとんど気付かれないと思うけど、迷惑かけたらごめんね」
「いいえ、気になさらず。私もきづいちゃった一人ですから」
一ファンとして、想像していたイメージより更に優しいMAKIDAIに一段とときめく楓だった。
「楓さんはMAKIDAIのファン歴長いんですか?」
工藤がたずねる。
「えっと、3章の頃からです」
「へぇ、3章からなのにSecondのメンバーではなく、MAKIDAIなんだぁ」
「はい。Secondとか全然知らなくて、3章になってすぐの紅白見てる時に、えっ、この人かっこいい⁈ってなって、急にスイッチ入っちゃって」
「え、それまで全然だったの?」
「はい、ドラマとかCMとか見たりしてたと思うんですけどね」
「へぇ、でもまあある意味一目惚れみたいな感じ?」
「そうなんですっ!…って本人の前でいうのは、なんか恥ずかしいですね」
と言って、肩をすくめる楓。
「いやあ、なんかそう言われると嬉しいけど、直接聞くのは照れ臭いかな」
そう言いながら、頭をかきながら照れ笑いのMAKIDAI。
「ちょっとぉ、二人とも十代みたいなリアクションじゃん」
工藤のツッコミまれ、二人は顔を見合わせ笑った。
店の中。
「名古屋コーチンの親子丼か〜、美味そ〜」
MAKIDAIの無邪気な笑顔を見ながらの食事。
楓は胸がいっぱいで箸が進まない。
「楓さん、少食だね?女の人って、これくらいが普通?」
楓は半分くらいしか食べていなかった。
「いえ、MAKIDAIさんと一緒ってだけで、もう胸がいっぱいで…」
MAKIDAIは、そう言われて嬉しいような申し訳ないような気持ち。
「でも、もう年齢的には量は少なめにしていかないといけないんですけどね」
「え、楓さん、まだ若いでしょ」
工藤が不思議そうに聞く。
「全然若くないですよ。いくつに見えます?」
「いくつって言われると、んーっ」
二人が首をひねりながら考える。
MAKIDAIは、
「間違って上の年言うと失礼だからなぁ、でも俺より若いのは間違いない。36、いや37位かな」
工藤は、
「いや、もう少し若いでしょ、35とか?」
「二人とも、お気を使って頂いてありがとうございます。答えは内緒ですけど、若く言って貰えて嬉しいです」
楓は嬉しいそうに笑う。
「え、俺より上?」
とMAKIDAI。
「これ以上言ったら、年がバレちゃうからいいませんよ」
「いやいや、年上の人に失礼があったらいけないし」
「いえ、失礼なんてないですよ。MAKIDAIさんは、私にとって憧れの人ですから、何言われても大丈夫ですよ」
「MAKIDAI、いいなぁ、こんな綺麗な人にそんなこと言われて」
工藤は、ニヤニヤしながらMAKIDAIを肘で突く。
「綺麗なんて、全然そんなことないですよ」
楓が慌てて否定するが、MAKIDAIが、
「いや、本当綺麗だよね、工藤ちゃん。絶対に年より若くみえるよね」
MAKIDAIも少しニヤケ気味だ。
「ありがとうございます」
楓は、肩をすくめながら照れ臭そうに笑う。