ただ、その時は突然訪れた。
父の転勤が決まって、また遠くに引っ越さなければならなくなったのだ。
今まで友達がいなかったから引っ越しも別に辛くなかったけど、初めて親友ができた私にとってそれはすごく辛いことだった。

沙希に言ったらきっと2人で過ごす残りわずかな時間が悲しい思い出になってしまうだろう。そう思った私は沙希に転校することは話さず、先生に頼んで引っ越し当日まで私の転校の事はクラスでは言わないでもらった。

_引っ越し当日、金曜日の終礼。

「先生から皆さんに残念なお知らせがあります。」

何だろうとクラス全員がコソコソと話し始める。

「佐藤結衣さんのお父さんの転勤が決まり、結衣さんは転校する事になってしまいました。残念ですが結衣さんと会えるのは今日で最後です。皆さん、きちんとお別れをしてくださいね。」

ガタ

沙希が勢いよく立ち上がった。

「嘘だろ!そんなの聞いてない‥なぁ、嘘だよな⁉︎」

「‥‥‥ごめん‥。」

今にも泣いてしまいそうでそれしか言えなかった。

「結衣のバカ!」

そう言って沙希は教室から走って出て行った。


その後引っ越しのトラックに荷物を積んでいる時も沙希のことを待っていた。

「結衣、そろそろ行くぞ。」

「はーい‥。」

それでも沙希は来なかった。
当たり前だ。親友の沙希には一番伝えるべきことだったのに、きちんと向かい合って打ち明けられなかった。私にはその勇気が無かったのだ。

それ以来沙希と連絡を取ることはなかった。
私の一番後悔したこと。
沙希に酷いことをした分、一生かけて悔やんでそれをせめてもの償いにしようと思ってきた。

だから、まさか再会するなんて思ってもいなかった。


「あの‥沙希‥‥えっと‥」

「いやぁ、まさか結衣とまた会えるなんてな!よろしく‼︎」

屈託の無い笑顔で沙希が言った。

「う‥うん!よろしくね!」

沙希はあの時の事をまるで無かったかのように言ったから、どうやって謝ろうかと身構えていた私は驚いた。
あのことはわざわざ言わないようにしてくれたのかな。


そんな沙希の優しさに感謝しながら教室へ戻った。