後ろのステップから降り、栄夏に手を振った。
武田君は、少し前を一定の速度で歩いている。
この調子なら気付かれなさそう。
スマホをいじってるから、たぶん大丈夫だ。
星哉の袋が、ぐるんぐるん振り回されていた。
それがまた、男の子らしい。
星哉のいる階は六階。
エレベーターホールに向かう武田君を見送り、自販機でココアを買う。
次に到着したエレベーターに、乗り込んだ。
流石に、すぐにいけば見つかってしまう。
「……なんか、悪いことしてるみたい」
ひとりでに笑いが零れた。
星哉の病室は、エレベーターから遠い。
ゆっくりプレートを眺めながら病室の前へ。
中から話し声が聞こえてくる。
でも、それは決していい雰囲気のものではなかった。
不穏な雰囲気。
そんな言葉が一番似合うほどに、険悪。
ピリピリとした、空気が壁越しに伝わってくる。