屋上から戻れば、教室には長谷川も向日葵もいなかった。
優翔が部活に行く用意をしていて少しいやかなり胸が痛んだ。
「今日の部活にも、出れないんだよな?」
「うん、出れない」
今、頼み事が一つ出来るのなら。
リベロとして、カットの練習がしたいと請い願うだろう。
それで、セッターのこいつに気持ちよくトスをあげてもらいたい。
あ、でも病気を治してもらえばいいのか。
「家でよければロッカーの荷物持って行こうか?」
そっか。
そうだな。
もう、バレー部には戻れないんだもんな。
一人だけ取り残されたような気分になる。
「星哉?」
随分と黙っていたみたいだ。
「あ、今日はさ、まだごちゃごちゃしてるんだよね。病室が。出来ればそっちの方に持ってきてほしいかも」
「じゃあ、病院の方に持ってく」
「あと、三日後とかでもいい? 荷物が邪魔でなければさ」
病室がごちゃごちゃしてるというのは本当だ。
自分では片付けられないから向日葵に手伝ってもらうしかないな。
情けない。
だからこそ、バレー部の人に頼めない。
そんな、ダサい所、見せたくない。
もう前の自分ではないのに、そことの差を見せたくない。
臆病なんだな、俺は。
「じゃあ、な」
部室へと走っていく優翔は遠い存在に思えて。
お前みたいなセッターとやれたの、楽しかったのに。
心の中で悪態をつく。
来たバスの人混みにうっとなる。
しょうがないな。
人とぶつかり合う間に痛みはない。
完全に麻痺したのか片足はぶつかられても何も感じない。
それもそれで苦しいな。
痛いのは生きている証拠、だっけ。
じゃあ、痛みのない俺は半分死んでるようなものなのかもな。
病院に入る時、自嘲がもれた。