「吉岡、ノートとか大丈夫?」




美結が私の隣から星哉に声をかけた。
私の胸が音をたててはねあがった。
星哉に、美結が話しかけてる。






それだけの事実、
それだけなのに私は見ない振りをして
下を向いた。






「ああ、向日葵に借りてる、ありがとな」
 




そう言って星哉はくしゃっと笑った。





その星哉の顔に、薄く頬を染める美結。
その頬の染まりの意味はよく分かる。
同じ気持ちを持つ人にとっては痛いほどよく。





そして、その次に彼女が抱く思いの名前を
私は知ってる。





自分が通った道だから。
嫉妬、だ。

 



「向日葵、大丈夫?」






 
栄夏が心配そうに私をのぞきこんだ。 




言いたくない。

   




そうであってほしくないから。



言わなきゃもしかしたら
大丈夫じゃないかなんて、
心の中で願ってしまう。




美結の中にあるその気持ちは
私がこれから全て粉に砕いていくことになる。
嫌でも、私が星哉の隣にいるだけで。






「美結、嬉しそうだね。私、だめだ」







私の大事な親友。






私が星哉と天秤になんてかけられない相手。
美結はきっと……随分前から星哉を好きだ。






私に美結のことを制限する権利はない。
でも、彼女が苦しむところをみる義務だって、
私にはないはずなんだ。






だからこそ、胸の不安は
くすぶって消えそうになかった。





美結の目付きが、
病気のことを聞いた瞬間に変わったの、
知っているから。