「余命」



意味さえも分からないように、
クラスメイトの一人がぼそっと呟いた。





馴染みのない言葉だし、
死を意味する言葉なんて
高校生には縁がない。






「お前、病気なわけ?」






独特な低い声が強い口調で
星哉に質問を投げかける。






波多野湊。
この学年の中で一番人気があると言われている
クラスカーストの頂上に立つような男子。





湊の口調はいつも尖ってるんだよね。
でも不思議と星哉とは対立していない。








「うん、そう」






星哉はダイレクトに聞かれた方が楽なのか
飄々として答えている。
そんな星哉を分かっての湊の行動だ。



 


「病気? 学校来れんのかよ、そんなんで」






波多野君は、自分が聞き出した様にして
星哉を楽にさせてる。










そういう、綿密なところが、
波多野君のすごい所だ。





「向日葵、大丈夫?」






考え事をしてたら、美結に顔をのぞきこまれた。




「え?」 






「だから、吉岡のこと」




美結が指す先に、
机に座った波多野君と
安定しないふらふらした態勢で星哉が
向き合っている。







「うん、知ってたし大丈夫」






やっぱり、大丈夫という言葉は
信用ならない。





大丈夫じゃない時ほど形になる。








「一年とか二年あるしさ」





 
こうやって自分に大丈夫と思い込ませる事で
前に進むのは決していい方法とは言えない。