+*向日葵side*+


トーストの香りで、目が覚めた。
いつもより十五分前。
予定通りに起きられた。





顔を洗って髪を結んで、念入りにチェックする。






星哉の記憶に残る私が少しでも誇らしくありたくて。
最後の学校だから、
それだけ印象に残る気がした。






リビングでお母さんと少し話をしてから
朝食を口に運ぶ。

 


「今日、委員会なんだ」






早く家を出る理由を、聞かれてもいないのに
答えて反応を窺っているあたり、
もう、嘘はバレている気がする。





「そうなの?」




   
向日葵、委員会なんて入ってた?







突っ込まれれば、即バレる。
深い嘘は生憎、得意じゃない。






「いってきまーす!」 







お母さんに付き合ってること、
ちゃんと言っとけば良かったな。





言えば、後悔しなかったかも。
別に、隠していたつもりはなかった。






ローファーに足を滑り込ませとんとん、と
爪先を整える。






「バスの時刻……あ急がなきゃ」





早く会いたい。
星哉の顔が見たいよ。






勝手に速まる足をそのままに走り出す。








ローファーで受けるアスファルトからの衝撃は、
痛いけど心地いい。






バスに滑り込むようにして乗り込み、
手近な手すりを掴む。





揺れるバスにつられて揺れる体は心地よかった。





あと何年でも。






何ヵ月でも。





 

最期まで君のとなりに居られたら。





細やかな願望を胸に抱えて私は、
病院の最寄り駅で降りた。