ゆっくりと片手が私の腰に回る。
その動作は、ひどくゆっくりしていて
嫌なざわめきが心の中で沸き起こった。




本当に、この彼がいなくなることが、 
そう遠くないことなんだって、
そう思っちゃったんだ。 
  


もう片方の手も、頭からそっと離れ、
私の体がゆっくりと包まれる。






いつもの力強さはなかったけれど、その抱き締めかたは変わらなくて。







ああ、愛しいなって思う。






「これまでも、寂しい思いばかりさせていたのに、向日葵にこれからも……」






“ごめんね”
一番星哉の口から言わせたくない言葉だったのに
それを遮ろうとして
零れ落ちた言葉は、意思に反するものだった。









「やめて! 私は、知らない!」








自分でもその言葉に驚いた。
その言葉が引き金となって
からだの芯が冷えていく。




言っちゃ、いけないのに。
一番病気で苦しいのは星哉なのに。
死ぬのだって、星哉なのに。
私がこんなに、我儘じゃダメだ。





それでも、撤回する言葉も
続きを聞くことも出来ないくらい
私の中は冷静じゃなかったみたいだ。
 







言いたい事と、私の中の私とが別物になってしまった。






……もしかしたら、分かりたくないだけ
なのかもしれない。





この現実をまだ、受け入れられないだけだ、きっと。






気づけば、彼の体は私から離れていた。







いきなり、無くなった感触に顔をあげれば。





壁をずるずると下がっていく彼がいた。






バランスの取れていない体。





どんなボールでさえ、落とさないリベロの星哉は
そこにはなかった。





その体力だったらよろけたりなんて、
しないはずなのに。





自分のしてしまったことに驚きながらも、










星哉の様子に震えが止まらなかった。