いつもは見つめられるとくすぐったくなる
その、澄んだ蒼を宿す目も。




いつもは聞くだけで蕩けそうなその声も。



整ったその顔立ちも。



……見れない。




見たらもうダメだ。
アンバランスな神経は崩れてしまう。





不安や後悔や、僻みそして希望や夢さえも。
流れ出して、壊れてしまうに違いない。
それくらい、私の中は短時間で脆くなっていた。




コツコツ、と松葉杖の音が廊下に響いた。






星哉がゆっくりとこっちに向かってくる。






その音が私をもっと窮地に追いやっていく。





責めるように詰るように、 
少し垣間見える優しさが逆に辛い。





星哉には怯えているように見えたんだと思う。
実際、頭の中はこんがらがり、整理がつかなくて
怖かった。





「ごめんね」




ふわりと頭の上に手が置かれて。






髪が少しだけくしゃくしゃになる。





いつもなら、もっと力強くぐちゃぐちゃに
掻き回すのに。
セットしたらセットしただけ
ぐちゃぐちゃにするのに。






星哉に撫でられると元気になる……のは
彼には秘密だけど。





そんな恥ずかしいこと、言えるわけがないんだもの。








私は……
セットした髪が無造作に散るのが嬉しかった。






周りの女子の羨望の眼差しさえ
気にしない星哉が眩しかった。






だけど、今回は優しすぎて涙が出そうになった。








星哉らしくなかったから。