そっと病院から抜け出して
私はバス停に立っていた。
バスを待っているのは私だけだった。
結構遅い時間になっちゃった。
でも、少し縮まった気がする距離を前に
帰りが遅くなったことなんて造作もなかった。
腕時計を見れば、長針は八を示していた。
私は、星哉とやり直したい。
それを言ったら、星哉は受け入れてくれるかな。
そうしたら、武田くんとした
私の知らない話も教えてくれるかな。
しょうもない話を
何時間もして笑い合えたあの頃に
本当の意味で戻れるかな。
星哉にとっての最後の一年を
私が、彩れるように。
言わなきゃ。
もう過去に捕らわれていたままじゃ、
何もできない。
どれだけ卑しい過去であっても
切り捨てるためには、ちゃんと向き合わなきゃ。
目の前に止まったバスの窓に
緊張した面持ちの自分の顔が映っていた。