「向日葵、ごめんね」
「え?」
いきなり謝られて我にかえると
星哉が小さな囁き声で呟くように喋った。
「大して話も出来てないのに、これから見回り来る」
そっか……。
もう、帰らないとか。
ちょっと待って。
看護師さんとかが来る……ということは。
「私、見つかったらダメじゃん!」
「ちょっ、ばかっ、声でかいって」
小さい声で制されて
私は慌てて口に手をやる。
星哉はちらっと廊下を見て
安堵のため息をついたかと思うと
いきなり死角となりそうな壁の凹みに
私を押し込んだ。
突然のことに、私の頭は真っ白になる。
「来ちゃったみたい」
ヒールらしい足音がゆっくり進んでくるのが
聞こえた。
「え、嘘。ど、どうしよう」
「声、出さないで」
口を分厚い手で押さえられる。
やっぱり、押さえられていないのと
同じようなものだけど
唇を噛んで黙る。
星哉の顔が近かった。
今すぐにでも逃げ出したい。
でも、我慢。
それに、少し楽しかった。