ああ、なんて残酷なんだろう。
実のお母さんは優翔の事を覚えてない。
どれだけ探しても、あなたの痕跡は何もない。
誕生日にもらったシャーペンだって、
行方知れずだし、きっと私の元に返ってこない。
……幼馴染みだからというだけで、
くれたものだと分かっていても嬉しかったのに。
「ねぇ……優翔。一つくらい、残してくれてもいいじゃない」
涙はいつもはしょっぱいのに、今日は苦くてしょうがない。
「……最近、元気ねぇのな長瀬」
波多野、だ。
でも、と横切る感情。
あなたも……覚えてないんでしょ?
「ねぇ波多野、優翔の事覚えてる?」
「ゆう……と?」
ああ、やっぱりダメ。
ダメなのわかってて聞いたのに、
“分からない”という顔を見ると涙が溢れてくる。
「教えて」
覚えてない人には教える必要あるの?