「えっと、不審がらないで欲しいんですけど……」
先を促すように頷く彼女の顔を見て
言いたくなってしまう。
でも。
もし、覚えてるべきなら彼女は覚えていたはずだから。
「この階段上ってすぐの部屋、何に使われてますか?」
間取りを知ってるなんてと、咎められてもおかしくない。
「私の主人の書斎……死んでしまったからそのまんまよ」
優翔が言っていた言葉を思い出す。
ここ、俺のお父さんがいたんだ。
その書斎を譲り受けて俺の部屋にしたんだ。
この家族は、彼だけが抜け出したかのように
そのまんまだ。
「そうですか、やっぱり……」
あ、また涙が落ちてきた。
本当に、どうしよう。
誰も彼もが、アイツを覚えてないよ。