「どうしました?」
その穏やかな声。
栄夏ちゃんって呼んでくれてた彼女は
……いるわけないんだもの。
当たり前だ。
「い、いえ何でもないです……」
訪ねてきてチャイムをならして
私は、いったい何がしたかったんだろう。
訝しく思われて終わりなのに。
何でもないなんて言って玄関口で泣いてたら
迷惑なの、分かってるのに。
「あがっていって?」
優しく笑った彼女の中に、
つい最近までと同じ柔らかさがあって
ああ、良かったってそう思った。
優翔がいなくなれば人生はそうとう変わってるはず。
それなのに、家も同じで、なんか良かった。
うまく言い表せないけど。
あげてもらった家は、全く変わらない。
優翔の部屋は?
「あのっ、変なことを聞いてもいいですかっ?」
淹れてもらった紅茶を押し頂くようにして私は
飲みながら向き合っていた。
「いいわよ?」