私があなたのお母さんのところを訪ねたときなんて
涙が溢れるのをとめられなかった。
知り尽くした家の間取り。
そして優しいあなたのお母さんも私は知ってる。
でも、あなたの記憶がお母さんにないということは
同時に私の記憶も彼女にはない。
息子の幼馴染みなんてものはなく
ただの通りすがりの女子高生だ。
それでも、私はあなたの家に行きたかった。
チャイムの音が軽やかになるのと同時に
私の胃はきゅっとしぼんだ。
「はーい」
知ってるおばさんの声。
つい最近まで知り合いだったのに
もうその頃には戻れない。
飲み込んだ唾が絡まって
声がでない。