まだ、星哉の回りは取り巻きやバレー部員がいて
騒がしかったはずなのに、いきなり
私と栄夏から音が消えた。
星哉は、自分と私にしか残らないって言ってたよね?
「ねぇ、向日葵! 電話も通じない……どころかアドレスが私のスマホから消えてるの」
私のスマホは……どうなんだろう?
探してみたけど、なかった。
「それだけじゃない、写真だってないし、皆も誰のことみたいな反応で」
死ぬならまだ誰かの記憶に残っていられる。
けれど、存在を無くすってことは
武田君が持っていた繋がりも営みも
すべて、無かったことになっちゃうんだ。
誰がこんなことを星哉と武田君にやらせたんだろう。
そんな非情なやり方、納得できない。
「向日葵、教えて」
私だって、よく分からないけど。
「皆の記憶から、武田君が消えてるってことぐらい」
知ってることまで教えたかったけど、
そうしたら彼女は今ここで泣いてしまうだろう。
「ああ、そっか。アイツ、存在しなかったってこと?」
八割九割、間違いない。
答えない私から答えを見いだして
栄夏の目からすぐ涙が溢れた。
「私、アイツと幼馴染みだったのに、それの記憶も全部、ないことになっちゃうんだ……いっそ、皆みたいに私の中からも脱出してほしかった」
それは、きっと出来ないよ。
栄夏は、きっと武田君のことが。
そんな感情は時に定められた規律を破ることが
出来る程に強いものなんだと思う。
……星哉が戻ってきて嬉しい、嬉しいけど。
ねぇ……何かが引っ掛かるの……