「あ、あのね……」





頭の中で繰り返し練習していた言葉を
言いかけたその時、
後ろのエレベーターが開いた。




「星哉」


武田くんも来れたようだった。






「武田くん……」





星哉の顔には動揺がありありと浮かんでいる。
なんでお前がと書いてありそうな顔だった。




「なんでお前が」




「聞きに来たに決まってるだろ」






少しイラついた武田くんの声に
目を泳がせて、星哉は狼狽している。






「向日葵は少し待っててくれる?」





他にする術が思い当たらなかったようで
取り合えず私に外してもらうことを選んだみたいだ。







「うん、はずす」


それが妥当だと、私も思っていたから
内心安堵してその場を足早に離れようとした。




「助かる、ありがとう」

 



その声を背に受けるのと同時に



「萩本さんにも説明したんならいたっていいじゃん」




結構苛立っているのか武田くんが声をあげた。






「いや、それはやっぱり、ね?」





「お前には関係ないだろ」




私と星哉の声が被った。
物凄く、気まずい。





お前には、関係ない。




もしかしたら、私には黙っていることが
あるのかもしれない。




いや、多分あるだろう。
でも、それはそれでしょうがないんだ。






私たちは贖罪の為に
付き合っているようなものだから
そんなこと、いちいち気にしてられない。






「じゃあ、ね」





私はその場から逃げるように離れた。






二人に後は任せるしかない。




何となく目に留まった自動販売機で
ミルクティーを押した。



小気味良い音をたてて缶が転がり落ちてくる。






それを受けとると、壁にもたれかかった。

そうしていると、あの日の情景が浮かんでくる。
なんで、あんなことが起きちゃったんだろう。
そういや、あの日の朝もミルクティーを飲んだな。






あの何年か前さえなければ、
私たちはもっとちゃんと付き合えたと言うのに。








こんなに好きなのに、
好きあっていたはずのに、
どうしてすれ違うのだろう?





すべては、過去からの交錯なのかな。
戻れるものなら戻りたい。






本当の関係に、戻りたい。





それを言うために来たんじゃん!
自分を奮い立たせても
やっぱり過去に回想してしまう。