「もうそろそろ行かなきゃかな?」



武田くんの声にはっとして
窓の奥を見やれば、日が傾いてきていた。





廊下にはオレンジ色の光が差していて
私と武田くん二人の影が伸びている。



黄昏るのにちょうど良さそうな雰囲気だ。






「面会時間に間に合うか微妙かも」





「それはやばいぞ、急ご!」





パッと手を握られて引かれていた。
速さについていけない。
なんで男子ってこんなに速いんだろう。
見える背中はこんなに広いんだろう。




バス停までの距離が異様に短かったのは
彼に手を引かれていたからだろう。





やっと止まった目の前の姿を 
見ながら息を整える。





「あ、ごめん、速かったよね?」






「めっちゃ、くちゃっ、はぁ速かった」





「でも、このバスに乗れば間に合うだろ?」


 

音荒く停車したバスに
悠々と乗り込んでいく彼の背中を
とりあえず追い掛ける。




「総合病院に行くんだよね?」





「そうだよ、だから三駅目」






三駅目の名前は総合病院前だ。
バス停からは、一二分しかかからないはず。






「間に合いそうだな」
「うん」



それでも面会終了の五分前に
病院に駆け込むことに。






二人でバタバタと駆け込むと
事務の人に柔らかく断られた。





「今日はもう終わりです」




「三分ですみます」





受付に体を乗り出して言っても
首を振られるばかりだ。




隣を見るとにやっと笑った武田くんがいた。




強行突破、しかないか。



「少しお聞きしたいんですけど」




武田くんに事務の人が気をとられた瞬間
私はエレベーターホールに駆け出した。







「あ、ちょっと」
「行かせてやってください」





武田くんと事務の人の押し問答を背に
私はちょうど来たエレベーターに乗り込んだ。



六階をボタンを押して
深呼吸をした。





ちゃんと、言わなきゃ。



「向日葵」


「せ、星哉」



開いた先には松葉杖をついた
星哉がいた。



お互い声も出さずに見つめ合う。





「向日葵どうした? 忘れ物?」




沈黙に耐えかねた星哉に聞かれて
私は首を振った。








「ちゃんと……言いにきたの」

 



「……そうか。速いな」





一瞬にして空気が張りつめた気がした。