それは、まだ初夏というには早い時期の事だった。




私の目の前には、
一週間前から入院してた彼氏がいる。
見た目の外傷はなく、病人らしくない。
それなのに。






「え、星哉何言ってるの……嘘、だよね?」





私の声が静かな病院内にゆっくり響いた。




病院では静かにしなきゃいけない。
そんなことは分かっていたんだけれど
嘘だって言ってもらえなければ、
私はどうにかなりそうだった。







「嘘じゃないよ、俺は余命二年だって言われた」
 




「嘘、でしょ? 嘘だよね?」





余命、なんて言葉を
彼氏に、しかも高校生となれば
易々とは信じられなかった。




訪れようとする沈黙は肯定を続けて
ただ私は、その前で放心するしかなくて。





「あ、もしかしてドッキリ? そう、それだよ! もうバレちゃったんだから白状しちゃいなよ!」





よくある、テレビでのドッキリ。
さんざん私が放心して悲しんで泣いたところで
すぐそこのドアから、司会者が入ってきて
私に言うの。






ドッキリ成功! って。




私は泣き笑いで、本当かと思ったと涙ぐんで
そんなわけないだろ、と星哉が微笑むんだ。





そうあってほしいと願えば願うだけ、
繋いだ言葉が空しく響く。






ああ、今この瞬間から、世界が逆向きに回ってくれればいいのに。





そうしたら、病気なんて知らずに生きていけるのに。




「向日葵」






星哉の掠れた声が頼りなげに浮遊した。
視界に映る全ての物が、可笑しくみえた。
誰の声だか一瞬分からない程に
その声は疲れきっていてくたびれていた。




 


……一週間前までの星哉とは大違いだ。






学年で五本の指に入るイケメン。







バレー部でも、重宝される存在。








女の子の的。






その先を言われたらもう、
戻れない気がした。
その、何もかもが。










「嫌だ、言わないで」