「萩本さん、待たせた?」
気を使ってさん付けになった呼び名が回りから浮いてる。
「ううん、いま来たばかり」
なんか、初めてのデートの会話みたい。
クスッと笑ってしまう。
「お店、入ってもいい?」
「分かった」
向き合って座るのか……
いつも席が隣だから必然的に前になることがなくて
顔を正面から見なくちゃいけないことが、
たまらなく苦痛だ。
「何、たのむ?」
あいにく、栄夏と喫茶店にいたから
あまりお腹は空いていないけど……
「うーんと、これ食べる」
店員さんを呼んで頼んでしまえば、沈黙が訪れた。
なんか、聞かなきゃ。
会話が途切れることが苦手な私は、急いで口を動かした。
「話って、何」
「お願い、したいことがある」
「なんの、こと」
「そんなに、切なそうな顔しないでよ。星哉の事を、想ってるんだろ?」
図星、だって星哉のことは何時も気付けば
考えちゃってる。
切なそうな顔をしていたつもりはないけれど。