今からいけば、ぎりぎり間に合う。





そして、今なら行けそう。
ぐずぐず悩むとまたダメになるから、
勢いで、言っちゃえ。





星哉の机から腰をあげて
踵を返した。





ドアを勢いよく開けたら
誰かに、体当たりしてしまった。
思わずふらついた体をその誰かが支えてくれている。





「あ……ごめんなさい」





「ごめん……って、萩本さん」





呼ばれた名前に顔をあげたら
見慣れたクラスメートの顔がそこにあった。




「ああ、武田くん。どうしてここに?」




走ってきたらしい、息が上がっていた。
急ぎの用事でもあるのだろうか。
それに、確か今日はバレー部は部活があったはず。


   


「武田君……バレー部今、活動中じゃ?」





そう、武田君はバレー部の部長だ。






星哉とのコンビがすごくよくて、
試合を見ている女子のファンは
大抵星哉か、武田君なんだ。





星哉には、一応私がいるから
遠巻きに見ている子達が多いのだけれど
武田くんは違う。





武田君は、彼女がいない。
猛烈なアピールを日々浴びている。
告白も相当受けているらしいけど、
全部断っているみたいだ。






「萩本さん、星哉のところ行ってきた?」






「え、何で知ってるの?」





「さっき、星哉に電話したら病状のこと、萩本さんに聞いてって言われて」





他人に言えるほど、私もショックから
立ち直っていないのに無責任な奴だ。









「そんなの、申し訳ないけど言えないよ……」






「いや、それが普通だから。星哉はそういうところが少しぬけているんだよね」





「そうなの! まるで人の気持ちがわからない」





そこまで言って自分もまたそうであることに気付く。
なんか、私って嫌な人だな。




「それじゃ、俺に乗り換える?」





ふざけていない口調で
顔をのぞきこまれて心拍数がはねあがった。




「ごめん、それは無理だよ。私星哉の彼女だから……」





耐えられない、というような顔をして
武田くんは吹き出した。




「本気で言ってないってば。俺が星哉の彼女口説いてどうすんの。ってことで、俺はこれから直接聞くために病院に行くつもり」





武田君は、自分に突っ込みながらも
私を笑わせようとしてくれているのが分かった。





彼もまた、察しがいいから
大体のことは予想できてしまっているに違いない。

 
 
 





「部活、早退するの?」




「うん、そう。萩本さんはもう行ってきたんだよね?」
 
 


「あ、病院になら、今から行く用があるの」






「そうなんだ……じゃあ、一緒に行かない?」






「行く」



頭の上に武田くんの手がおかれていた。
 




「あまり、根詰めるなよ?」





柔らかく響いた声は、否応なしにおとこの人を
感じさせた。



大きな手は星哉とはまただいぶ違うけれど
また違う力強さを持っていて
安心させられた。





それでも、状況が飲み込めていないのは
変わらずで、心臓は加速し
私はポカンとその手と顔を眺めていた。