すごい勢いで走ってきた栄夏は
そのまま、美結の胸ぐらを掴んだ。
「お前のせいでぐっちゃぐちゃなんだよ! どうせ、やらせなんでしょ? 知ってるよ? 好きとか嫌いとか、ただ向日葵が羨ましくてその彼氏が欲しかっただけでしょ!」
「栄夏……」
「いっつもいつも、自分は向日葵のせいで隣で無理に笑ってるみたいな、好きなのを隠して付き合ってあげてるいい子みたいな面すんなよ! そうやって、回りに向日葵の悪口言ってんの知ってるから!」
告げられた事実より、ここまで怒った栄夏を
見るのが始めてで驚きで。
「別に、私が誰を好きでもいいんじゃない?」
飄々(ひょうひょう)とした態度に栄夏の手がしなる。
栄夏の手は真っ直ぐ美結の頬にぶつかって
結構な音がした。
「もういいよ、栄夏やめて」
美結に言われた心ない言葉より
栄夏の口から聞いた、美結の憎しみより
なにより。
あの頃さえも壊してしまうこの瞬間が
来て欲しくなくて。
あの頃に戻れないならいっそ、一から始めたかった。