三十分後、私はバスを降りて
ぼんやりと学校の廊下を歩いていた。





五月でも日差しの入る校舎の中に、 
いくつもの部活の掛け声や笑い声が
風に乗って運ばれてくる。







私の所属するバトミントン部は
今日は部活がない。




そんな外とうって変わって、校舎内は静かだった。




ひんやりとした風が頬を撫でていく。
スカートがそれに合わせてはためいて、
風が止んだ。




自分のクラスのドアの前で誰もいないか確認する。
慎重にドアを開ければ、昨日の放課後から
一寸たりとも変わっていないことが見てとれた。







さっき星哉に言われた言葉を反芻しながら 
彼の席の机に座る。





私の席は、ここから斜め後ろだから
黒板が近く感じられた。








授業中にそっと眺めるたくましい背中が
思い出される。






さっきの力が入らない彼からは予想ができないくらい、星哉は運動神経がいい。




病気のせいで、過去形になってしまうのだろうか。




タイミングを読んだかのように、
胸元のポケットで今流行りの着メロが鳴った。






この曲は、電話帳に
一番目に登録している人のーつまり星哉からのだ。




通知の名前を見れば、思った通りだった。
星哉の名前が液晶画面の真ん中に表示されている。







開いた受信のメールに
結構長い文章が羅列されていた。





圧倒的な長さに気圧される。








「向日葵の笑顔が好きです。



唐突で申し訳ないけど、これは
本当にずっと前から思ってたことなんだ。





その笑顔が俺に向けられていてほしい。
病気になった今でも、そう願い続けています。



もしかしたら向日葵にとっては
会わない方がいいかもしれない。
俺が死んだ後をお前一人にさせてしまうのも
どうかなと思う。




いっそ、他のやつに乗り換えてもらった方が
いいのかもしれない。




向日葵のことを思えば
そうしなきゃいけないんだと思う。

 


でも、俺には出来ないや。






俺、結構真面目に向日葵が好きで
病気になったくらいで変わるものじゃないんだ。






死ぬときに側にいてほしいと思えるのは
向日葵なんだよ。





向日葵に手を握っていてほしい。




辛い時に励ましてほしい。






俺、依存しすぎなのかな?





それでも俺はいいかなって思ってる。








本当は死ぬのが怖い。




二年後っていったってすぐ来るものだし
その間の時間、俺はどんどん衰弱していく。




だから、何もしてあげられないかもしれない。





だけど……俺は向日葵の彼氏でいたい。




ねえ、あのさ。





バスケの試合を見てもらってばっかで、まだお前のバトミントンの試合、一回も見てねぇんだよ。




俺も、お前にドリンクとかタオルとか
差し出してみたいんだけど。








向日葵が行きたがってたあのカフェに行ってない。



遊園地も行ってない。





まだ、クレープも食べてないよ?
新作、食べるんだろ。







我儘だって分かってるけど
それでも頼みたい。
お願いだから、戻ってきて。





向日葵が戻ってこないような気がしてならなくて
こんなメールを送った。

     



ちゃんと向日葵を信じられない俺は
最悪だと思うけど、こんな俺を許して。