それがいま現れただけの話だ。
ずっとずっと二人を苦しめていたのは私。
私の今の苦しみなんて。
彼らの苦しみにはほど遠い。
私は泣いちゃいけない。
泣く資格はない。
なのに、涙はぼろぼろ零れていく。
「ねぇ、萩本さん」
「武田……君?」
顔を上げると、見慣れた笑顔が私を見ていた。
そして、手を差し出してくれる。
「ありがとう……」
その手は、星哉と違って力強い。
「俺が好きなの、萩本さんだよ」
一回も私の中に光らなかった彼。
一度も意識しなかった、筈なのに。
「うん」
簡単に返事は、滑り落ちた。
……彼は、ずっと私を好きでいてくれたんだ。
振り向くことなく、星哉のことだけを想う、私を。
バス停のところで待っていてくれたり、
星哉の良いところ教えてくれたり。
私のことを、後押ししてくれてた。
今思えば、星哉と言い争いしていたのは私について本気で怒ってくれたからなのかもしれない。
……きっとそうなんだ。