「……ばーか」




黙ったままだったから心配になっていた
丁度そのとき。







赤茶の髪をかきあげて、
綺麗な弧を縁取る瞼や目を露にして
星哉は私に向かってそう呟いた。







予想の範囲を越える返事に
私は間抜けな声を出した。


   



「ふぁ?」





一気に間合いを詰めて
すぐそこに吐息を感じる程近くに
星哉はそばに来ている。



頬にかかる吐息に
おろおろしてしまう。





「俺、お前を放すつもりないって何回も言ってるはずだけど?」






「いや、だからね? 別れようって」






逆に焦って、たじたじの私のことはほぼ無視で
いきなり始まった少女漫画上の風景。







客観的に見たら、アゴくいされてる
女の子がイケメンに惚れてるみたいな
そんな風に見えるに違いない。







「取り敢えず、そこの松葉杖取って。向日葵のせいだからね」







「あ、はい」





つい、命令口調に従ってしまって
私は松葉杖を拾った。





度々この困った性格は姿を見せる。
顔がいいからか中身も整ってるからか
それとも回りから冷やかされ過ぎたのか。






星哉は、少し俺様気質を持ち合わせている。
普通にしていれば現れないから大丈夫だけど。







「別れたってどうせ、忘れられないくせに」






……出た。






そういう俺様気質故の、謎の自己肯定感。


   



「はい……そうです」



          


星哉は冗談のひとつのつもりだと思うけど
それが胸に深く突き刺さった。






……死んでも、別れても私は 
星哉を忘れられない。






「よし、なら死んでもどうせ忘れられないんだから、そのままで」








その冗談が笑って流せない。