その日の放課後。



「......ていうことがあったんですよ」



塾で授業が一通り終わり、余った時間に和泉先生に柚の話をすると、うーんと首をひねった。


「たしかに、すげぇ謎なやつだな」

「ですよね...」


あ、もちろんバスケの後の柚をからかいまくった話はしていない。


「てゆうかすみません。授業と関係ない話たくさんしちゃって」


そろそろ授業も終わりの時間だ。

筆記用具やテキストを鞄に詰め込みながら言った。


「早く終わったしかまわねぇよ。それに生徒の悩み事を聞くのも俺の仕事だ」

「......ありがとうございます」

「ん」

先生は微笑み、ワシャワシャと頭を撫でた。

ドキン、と心臓が跳ねる。

なにこれ。胸が苦しい。

なんなんだ、このドキドキは......!


「こ、このあと授業ないんですか?」

「俺はもうねぇな。あとは色々書かなきゃいけねぇ書類が山積みになってるくらいだ」

「あー、そうなんですね......」


なんだろう。顔が火照ってきた。


「つうかさ。気になってんだけど...」




その時。


なぜか一気に体の力が抜け、気がつくと頬に鞄の冷たい感触。


「お前昨日からずっと顔色悪......おい!?」


和泉先生が90度横になって見える。



あれ......?なに、これ......?



「晴......おい、晴!」



遠くの方で和泉先生の心配そうな声が聞こえ、「大丈夫です」と言おうとしたけれど声が出なかった。





やば......なんか、きもちわる......い......。






そのまま私は意識を失った。