『失礼します。夕食の準備が出来たので、お二人をお呼びするようにと旦那様が。』

『ありがとう。聞き苦しい場面に遭遇させてしまって申し訳ないわね。』

『いいえ、お嬢様と群様のやり取りには慣れておりますから。いちいち動揺していては秘書は務まりません。』

『とか言いながら、さっきビビってたじゃねぇかよ。』



 ニヤリとして群が言えば、ガルシアは『バレましたか。まだ早い時間から盛っておられるのかと思って驚きまして』と、同じく不敵な笑みを返す。群に翻弄されていたせいで、この気配が昔から身近に居たガルシアのものだと、すぐには気付けなかった。アタシもまだまだ、ということだろう。

 心中で溜め息をついた時、群が『そういや、お前の名前って変わってるな』と小舅秘書に向かって言った。ガルシアは小さく頷き、『なにぶん変わった両親でしてね』と答える。

 “ガルシア”という名は本来は名字に値するのだが、彼の両親は名前にするという一風異なる行動に出たらしい。ガリシア地方出身だということにかけたのかどうかは分からないけれど、最後に“ア”が付くので、幼少の頃はよく女の子に間違われたのだと、ガルシアは若干迷惑そうに話してくれた。