「……お前、他人に甘いぞ。悪くはねぇけど、せめて俺には厳しくても良いんじゃねぇか?」



 上からクスクスと笑い声がする。耳でさざ波のような彼の鼓動を聴きながら、男性にしては細い――けれど鍛えられたその体に、そっと両腕を回した。

 再び頭上から抑えたような笑いが聞こえ、「やっぱり俺の前ではガキだな」と、妙に嬉しそうな声も降ってくる。反論しようと顔を上げれば、晴れ渡る空のように穏やかな笑顔が、そこにあった。



「……仕方ねぇから訂正してやる。ボスとかガキとか以前に、俺の前では“ただの女”で良いんだぜ?
まぁ、もしお前が泣いたら俺の“胸の内”ってやつを話してやっても良いけどな。一回くらいは、惚れてる女の泣き顔を見てみたいと思ってもバチは当たらないだろ?」



 本気だか冗談だか分からない言葉と意地の悪い笑みを浮かべ、群は言う。この男は本当に憎い奴だ。自分のことは棚に上げ、アタシには全てをさらけ出せとは……憎らしくて、愛しい。



「……当分見せてやらないわよ、泣き顔なんて。」

「それでこそ未来だな。」



 初めから答えを予測していたのだろう。「残念だ」と呟いた群は、太陽のように笑っていた。