「……この際言わせてもらうけど。アナタ、何を考えているか分からないのよ。意見は確かにはっきりしているけれど、肝心な“胸の内”を見せてくれないじゃないっ……」



 隠しきれない沸き上がる思いが、語尾の震えとなって表れる。目ざとい群はアタシの心の移り変わりに気付き、ハッとした顔でこちらを見つめてきた。漸く交わった二つの視線。どちらもきっと、不安と戸惑いに揺れているのだろう。



「未来、悪かった。お前がそこまで思ってるなんて知らなくてな……」



 ばつが悪そうに呟いた群は、アタシの髪をクシャリと撫で、その切なくも威厳を帯びた瞳をまっすぐに向けている。吐息のかかる距離は、心地よいけれど苦しい。彼の目が訴えてくるからだ。“俺のために泣くな”、と。

 それに応えるべく“ボスの自分”を保とうとするアタシを、群は少しだけ乱暴に、けれど優しく、その胸に抱いてくれた。意識していなかったムスクとアンバーの混香が急に鼻腔をくすぐる。あぁ、これが群の香りだった。そう思うと同時にせり上がってくる何かと、必死に戦う。

 ――馬鹿ね、余計泣きたくなるじゃない。その言葉と共に涙も飲み込む。だって、アタシはボスなのだから。