「ところで、イリスの命名者ってお前なんだろ?みんなに反対されなかったのか?」

「……唐突に言うわね。ええ、アナタの予想通り、一度は反対されたわよ。」



 イリス――人に付ける名前でなければ女性名詞でもない。“女の子に名前として男性名詞を与えるなんて”と、特に使用人三大頭は猛反対したのだ。そんな彼らも、イリスの笑顔を見ればたちまち納得してくれた。『ボス、命名のセンスがおありですね。失礼しました』、と。



「“アルコ・イリス”から取ったんだろ?“虹”ならあいつにぴったりじゃねぇか。」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。あの子の名前にするならそれしかないと思ったから。」

「良い選択だったんじゃねぇか?それに、風習にこだわらない所がお前らしい。」



 スペイン語圏では女性の名前の最後には“a”が付くことが多く、日本のように男性に多い名前を女性に付けたり、女性に多い名前を男性に付けたりということはほとんどない。つまり、その人の名前を聞けば男か女かがすぐに分かってしまうということだ。

 どんなありふれた名前もピンとこなかった。だから、イリスになったのだ。あの日の雨上がりから、彼女は。