『お嬢様、お帰りなさいませ。今夜はお帰りにならないかと思いましたよ!』

『ね。てっきり群様と……』



 イリス程ではないが、駆け寄ってきて嬉しそうな様子で口々に話すメイド達。みんなアタシより年上なのだけど、背は見下ろす形になるから、妹を沢山持った姉のような気分になる。

 彼女達の傍らでは、マヌエルや他の部下達が優しい笑みを浮かべている。ソニアが『ボス、何だかママみたいね』と呟いたのがしっかりと耳に入り、少しだけ照れ臭い。



『こらこらあんた達!お嬢様と群様を廊下で足止めするんじゃないよ!!』

『すぐに両端に寄らないと、後であたい達が一人ずつお説教するからね!!』



 声を大にして叫んだのは使用人の三大頭の内二人、マルタ・カラスコとアデラ・ロドリゲス。彼女達は49歳・58歳と、メイド達の中で最も年上の二人だ。ちなみに、もう一人の頭(かしら)は執事のマヌエルである。

 二人に言われた使用人達は即刻道を空け、頭を下げる。群に抱きついたままキョトンとしていたイリスは、慌ててその列の中に割り込んでいく。アタシと群は思わず笑ってしまった。イリスは勿論、その理由が分からずに首を傾げていたのだけど。