「……どういうことかしら?」

「いや、この前良くない噂を聞いたんでな。どっかの無名のファミリーが、お前らを襲撃する計画を立ててるってよ。
無名だから大したことはないだろうが……ローサの屋敷近辺をうろついてる奴が居たら注意しとけよ。」



 珍しく神妙な面持ちで語る群。こんな時でさえ、彼の棕櫚の目は美しい。アタシは少し考え事をした後、分かったと返した。この前メイドのアデラが『あたい、怪しい黒ずくめの奴を見たのよ』と言っていたのを思い出す。皆に注意を促すべき、だろう。



「……ねぇ群、それを言うためだけにこっちに来た、なんて言わないでね?自家用ジェットとはいえ、無駄なフライトだわ。」

「勿論それだけじゃねぇよ。お前のご両親にすっかりご無沙汰してたし、何よりお前に会いたかったからな。」



 群は照れるでもなく、別段いつもと何も変わらない口調と表情でそう言った。小心者は運転を誤ることもあると聞くが、この男はどうやらそれとは無縁らしい。

 確かに二ヶ月程会っていなかった。でも、昨日電話で話した限りでは“会いに来る”という話は全く出なかったのだ。やはり他人を驚かせるのが好きなのだろう、彼は。